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院長コラム

上腕骨外側上顆炎について~新しい注射治療~

2024年11月06日

皆様こんにちは。11月になりました。ここ数年、本当に夏が長く、秋はあっという間に過ぎてすぐに冬が来てしまう印象です。子供の頃はスキーが好きで、雪の季節が楽しみで仕方なかったですが、今は我が家の最高意思決定者さん(笑)が寒さにめっぽう弱いので、スキー場とは無縁となり子供にもスキーを教えることなく約20年経ちました。この季節、寒暖差で痛みや体調の変化も出やすい季節ですので、皆様ご自愛ください。

さて、今日は大人の肘の痛みの代表選手、いわゆる「テニス肘」のお話をしようと思います。スポーツ障害でもありますが、決してテニスが悪いわけではありません。手関節をよく使う(手関節を反らす運動を強いられる)作業に従事される方にもよく起こります。正確には「上腕骨外側上顆炎」と呼ばれます。

外側上顆とはなんでしょうか。解剖の図をご覧いただきたいのですが、肘関節は上腕骨と前腕骨(橈骨と尺骨)から形成されます。上腕骨の外側と内側は膨らんだ形をしており、ここに様々な筋肉が付着します。このうち、外側の膨らみのことを外側上顆といいます。外側上顆には短橈側手根伸筋長橈側手根伸筋指伸筋が付着します。手根伸筋は手関節を背屈する働きを、指伸筋は指を伸ばす働きをしますが、これらの使い過ぎでこれらの筋肉の端っこ(腱)が外側上顆の付着部付近で炎症を起こしたり、部分的に腱の損傷をきたしたりして、上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)が起こります。特に、短橈側手根伸筋での炎症や腱損傷が起こりやすいことが知られております。エコーで炎症箇所が描出されることも多いです。

筋肉の使い過ぎによる腱付着部炎が主な病態であるため、治療としては「安静」が基本となります。医療機関を受診し、「テニス肘ですね。安静にしてください」と、消炎鎮痛薬の投与と場合によっては疼痛部位に注射を受けた経験をされた方もおられるかと思います。仕事や家事等で、手を使わないわけにはいかないため、この「安静」を得ることが非常に難しいのが実際のところです。使いながら直すことを考えた場合には腱の動きを制動するために、いわゆるテニス肘サポーターを使うことも一つの方法です。今はネット通販で安く手に入れることが可能です。また、再発を予防するために、原因となりうる短・長橈側手根伸筋や総指伸筋をストレッチすることも重要です。これもたくさんネット上にストレッチの動画等、ありますのでいろいろ参考にされてください。

ここで、「注射」について少し追加です。これまで、上腕骨外側上顆炎の注射といえば局所麻酔に抗炎症作用のあるステロイド製剤を混ぜたものを注射することが一般的でした。確かにステロイドの抗炎症作用は強いため、シャープに痛みの緩和を得られることは今昔変わりません。ただし、しばらくたって効果が切れ痛みがぶり返してしまい、また注射、の繰り返しのうちにステロイド注射は腱の脆弱性を惹起するため、副作用としての腱損傷がひどくなり、さらに痛みの再発を繰り返す、といった悪循環にはまる症例も経験します。そこで最近行われるようになってきた方法に、「プロロセラピー」と「PRP注射」があります。これらはともに腱の付着部組織の修復(再生)により痛みをとる方法で、旧来のステロイドにはなかった組織の修復効果を狙った治療となります。プロロセラピーは高張ブドウ糖液を注射し組織の炎症を惹起することで、炎症後の修復反応によって腱付着部の再生を企図するものです。ステロイドと違い腱の脆弱性が出ないことが最大の利点ですが、炎症を「増やし」て治療するため、注射後数日痛みが増えることがあります。この時痛み止めを使うとせっかくの炎症が落ちてしまい効果が減弱する可能性があるため、痛み止めを使えません。これを3~5回繰り返して注射します。「痛みをとるために病院に行ったのに、逆に痛み増えるやん!」というつらい治療ではありますが、一般の注射とほぼ同額の保険診療での治療であり、気楽に試すことのできる再生医療の一つかもしれません。PRP療法に関しては、自己血から組織修復を促すサイトカインを抽出して注入する方法です。これは炎症を惹起することはほとんどないため、注入後数日の痛みもでません。ただし、自費診療(保険適応外)であり高価であることが難点です。

最近エコーガイド下で旧来のステロイド注射をはじめ、プロロセラピーやPRP注射も正確に患部に注射できるようになってきました。学会発表や文献上でもプロロセラピーやPRP注射の有効性や長期の持続が期待できるという報告が多く見受けられるようになってきました。今は過渡期といった印象ですが、今後はステロイド注射に代わって新しい組織修復をターゲットにした注射治療が一般的になってくるかもしれません。当院でも患者さんのニーズに合わせた注射内容や、投薬・リハビリテーションを行っております。お気軽にご相談ください。

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