Column
院長コラム
メノポハンド~更年期の手の障害~
2024年12月12日
皆様こんにちは。師走の慌ただしい時期となってきました。今年の夏はとても暑く長かったですが、秋はあっという間に通り過ぎ、12月はしっかり冬模様となってきました。街はクリスマスモード。私の学生時代のクリスマスソングといえば、山下達郎さんやマライア・キャリーが定番でどこへ行っても流れていた思い出ですが、今の学生さんの世代には「昭和やな」で一蹴されそうです(我が家の3姉妹の口癖です)。今日はそんな私の同世代の「昭和生まれ」女性の手の痛み、についてお話ししようと思います。
というわけで、早速ですが「メノポハンド」はご存じでしょうか。これはmenopausal handの略語で、直訳すると「更年期の手」となります。更年期は女性にとっては避けて通れない時期で、閉経前後の数年間(40歳代~50歳代)を指します。この時期は、エストロゲンという性ホルモンが急激に低下するのですが、これによって身体的・精神的な症状が現れることがあります。ホットフラッシュや気分の変調、睡眠障害など、更年期障害でお聞きになったことがある方もおられるでしょう。一方、腱や関節の滑膜などにもエストロゲンホルモンの受容体があり、エストロゲンの作用で腱や関節も保護されています。手にはたくさんの腱や関節がありますので、エストロゲンレベルの低下で様々な手の障害を引き起こすことがあります。これをメノポハンドと呼んでいます。代表的な疾患には、
- ばね指:母指、中指、薬指に多く、指の曲げ伸ばしで「パチン」とひっかかる
- ヘバーデン結節:指の第1関節に腫れと痛みが起きてやがて変形する
- ブシャール結節:指の第2関節に腫れと痛みが起きてやがて変形する
- 手根管症候群:親指から中指までの正中神経が圧迫され、しびれが生じる
- 母指CM関節症:母指の根元が痛くて、ペットボトルのふたが開けられない
- ドケルバン病:手首の母指側が腫れて痛む
などがあります。各々については日本手外科学会のHPにパンフレットがありますので、一度ご覧になってください(https://www.jssh.or.jp/ippan/sikkan/index.html)。
これらの代表的な症状に完全にマッチしなくても、「朝がこわばる」「手が腫れぼったい」といった、いわゆる関節リウマチや膠原病に類似した症状を呈することも多いです。実は、私はこのメノポハンドを知ったのはここ最近で、これまで関節リウマチを疑い採血しても空振りし、「心配いらないですよ」と言っていましたが、今考えるとメノポハンドであったのかな、と反省することしきりです(勉強不足で申し訳ございません)。一方、メノポハンドから関節リウマチに移行することもあるといわれており(宮地清光ら.日内会誌, 2019)、診断・検査ではメノポハンドを疑いながら関節リウマチもカバーするような慎重さが必要です。
さて、更年期障害として手の疾患を扱うことに整形外科はこれまで慣れておらず、メノポハンドはこれまで一般的な鎮痛薬や装具療法、ステロイドなどの薬物療法がおこなわれてきました。ここ最近になってエストロゲンに着目した治療が試みられるようになってきております。その代表はホルモン補充療法であり、医薬品のエストロゲン製剤が用いられます。エストロゲン製剤には乳がんや血栓症、子宮疾患の悪化のリスクがあるため、産婦人科の先生との協力が不可欠です。また、エクオールというエストロゲンに類似した構造の大豆由来成分のサプリメントが効果があるという報告もあります。ただし、サプリメントであるからと言って乳がんや子宮内膜症・子宮筋腫等のリスクがないとは言い切れないため、使用量は守る必要があります。
今年最後の院長コラムになりました。今年も一年お付き合いいただきありがとうございました。少し早くなりますが、皆様よいお年をお迎えください。来年、皆様それぞれ良い年になることを心から祈念しております。それではまた来年お会いしましょう!