Column
院長コラム

野球肩(子供の投球障害肩)について

2024年08月14日

皆様、こんにちは。夏本番、暑い日が続きます。夏の甲子園もプロ野球もメジャーリーグも真っ盛り、夏休みの野球少年・少女は練習に大会に、力が入る季節です。さて、前回は「野球肘」についてお話ししましたが、今日は「野球肩」についてお話ししようと思います。

「野球肩」とは、

投球動作によって繰り返される肩への力学的ストレスによって引き起こされる

・成長期の上腕骨の近位端にある成長軟骨帯(骨端線)の障害(骨端線離開)

のことを指します。大人の投球障害は肩の腱板という筋腱部に生じますが、少年少女の場合は筋腱ではなく骨端線に生じることが大きな違いです。別に野球に限らず、投てき競技などの肩を酷使する競技であれば、少年少女だれしも起こりうるものなのは、野球肘と同じです。

肩関節は肩甲骨と上腕骨から構成されます。肩甲骨のお椀のような受け皿に、上腕骨の骨頭部(ボール)がはまり込んで関節を形成します。上腕骨には骨頭を取り囲むように腱板が付着し、骨幹部には三角筋や大胸筋などが付着し、これらの筋肉が協調して複雑な肩関節の動きを生み出します。ボールを投げる動作ではこれらの筋肉の作用具合で、上腕骨には捻じれの力が絶えずかかることになります。

子供の上腕骨の骨頭付近には、図の点線のような隙間があります。この隙間は骨が成長するための成長軟骨の隙間(骨端線)であり、まだ未熟な骨構造である裏返しであります。投球動作により上腕骨に繰り返しのねじりや牽引力がかかると、力学的に弱い骨端線に負担が蓄積します。大人では骨が成熟しているため、投球障害では腱板や関節軟骨(関節唇)の損傷を来すことが主ですが、子供の場合は骨の弱さから骨端線に損傷を来し、骨端線が開いてしまいます。これが、野球肩(Little League Sholder)です。症状としては肩の痛みであり、野球のプレーのある一瞬の投球で痛みが出ることもあれば、練習や試合後しばらくして痛みがでることもあります。

診断はレントゲン検査が中心であり、左右を比較することで、骨端線の離開が明らかになることが多いです。診断に迷う場合はMRIも有用です。治療は安静(投球禁止)です。目安として1~3か月の安静(ノースロー)で経過を見ます。残念ながら、骨端線の再生を早める特効薬はないのですが、骨端線は成長するための軟骨帯であるので骨の再生能力は旺盛のためしっかり休むことで十分回復が期待でき、ほとんどの場合は元のスポーツレベルに復帰できます。逆に慌てて復帰すると再発のリスクもあり、骨端線離開の程度がひどくなると変形治癒などの後遺症が残る可能性があります。また、再発も20%弱で報告されています(Bedner ED, et al. Orthop J Sports Medicine, 2021)。これは、十分なノースロー期間が取れなかったりするのも一つの要因ですが、投球動作における肩への負担が他人より大きい可能性もあります。つまり投球フォームに問題があったり、肩に負担がかかってしまうような肩甲骨周囲の筋肉の硬さがあったり、脊柱や股関節の硬さがあったりすることで肩の負担が大きい可能性があります。よって、ノースロー期間は、投球にかかわる全身のコンディションの調整や投球フォームの見直しをすることをおすすめします。当院でも理学療法士や作業療法士に全身のコンディショニング(ストレッチ運動)の指導をさせて頂くことも可能ですので、お気軽にご相談ください。

ではまた次回、お会いしましょう。

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